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まさかいつもの年のように、桃をいただくとは思わなかった。
 

先日の、「平成30年7月豪雨」。

ご夫婦揃って70歳を過ぎる知人の家は、裏の山が崩れた。

隣家との間を、土砂が滝のように滑り落ち、2台の車を巻き込んで下の家を飲み込んだ。

ご夫婦は、真っ暗闇の大雨の中、レスキュー隊に助けられ、そのあと避難所で4日を過ごした。
 

それだけの被害の中で、彼等の家は奇跡的に無事だった。

家の中に土砂も流入せず、そしてその村では死傷者も出ていない。

だから新聞にもテレビにも、その地区の名は出ていない。

だがあの光景は、いつも遊びに立ち寄っていたあの地区の面影を完全に変えてしまっていた。

真っ青になっている私に、ご夫婦は言った。

「まだ生きろと言われとるような気がしたわ。」
 

知人は数年前から体調を崩し、一時は歩くことも苦痛になり。

朗らかだった性格がだんだんと気難しくなっていくようだった。

それでも人に手伝ってもらいながらも、桃作りをし、毎年分けてくれていた。
 

集落がそんな状況だから、桃畑のことは私の頭ではすっかりダメになっているもの、と思っていた。

現に、そこへ行く道がひどいありさまで、自力で歩くことが困難な人には到底たどり着けない。

なのに、今年もきちんと。

私は、桃をいただいた。
 

驚く私に、「桃も、人様に食べてもろうての寿命じゃ。ここまで大きゅう育ったのに、人間の都合で放ったらかしは気の毒じゃ。今年は味のことはなーんも言わんで、食べてやってくれ。」
 

甘くて甘くて、本当に美味しい桃だった。

たくさんいただいたから、これでコンポートを作ろう。

着付けレッスンにいらっしゃるかたへ、休憩時間に振る舞おう。

お子さん連れでレッスンにいらっしゃるかたもいる。

どんな思いでこの夏を過ごした人が育てた桃なのか、そしてその人が来るのをじいっと待っていた桃なのか。

ちょっとだけでも聞いてもらいたい、そんな気になった。