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年寄り扱いを嫌う義母だが、さすがに傘寿の足音が聞こえる年になるとそうも言っていられないようで。

二階のベッドを下ろして一階に寝たら、という提案に、今回は意外にもすんなり頷いた。
 
亡くなった義父との思い出の部屋から寝間を移すことを、以前は眉間に皺を寄せて拒否していたが、月日の流れは義母の足腰と、頑固で強がりな発言を確実に変えていっていることに、実はこっそりとショックを受けていた私だった。
 

二階に上がるのも足腰のための運動・・・だなんて、もうそんな悠長な考えをしている時間はない。

早速夫と、小さな実家の小さな居間の大改造を行った。
 
 

ベッドを降ろし、タンスを移動させ、生活用品が出来るだけ手の届く範囲にあるように配置する。

最初は、「あーだ、こーだ」と口を出しかけた義母だったが、息子と嫁の引越屋並みの勢いに口を挟むすべもなく・・・。

やかましい声が聞こえなくなったな、と思ったら、風通しの良い別室で静かに作業が終わるのを待ってくれていた。
 
 

さあ移動が終わったから、このあとは引き出しの中の整理を。

タンスの移動のために引き出しの中のものを「がさっ!」と出したついでに、不要なものを捨てるかと思ったが。

何一つ捨てるものはないのだと言う。

「これは修学旅行で買ってきてくれたお土産・・・これは結婚式のときに使った飾り・・・」

あぁ始まった、思い出話。

懐かしそうに話す姿は可愛らしい。が。

聞いてあげたいが、「お義母さん、このあと病院に薬もらいに行って、そのあと買い物にも行くんだから、あとにして。」

嫁は非情だ。
 
 

名残り惜しそうな義母をせかして車に乗せる。

着々とやるべきことを済ませ、スケジュールをこなしていく。

あとは帰ってから墓掃除に行かなくちゃ・・・と思っているときに、あぁ始まった、立ち話。

息子と同級生の商店で、おかあさん同士の話が始・ま・っ・た・ー・・・。
 
 

「お義母さん、お墓に行かなきゃいけないんだから…」と言いかけて、ふと会話が耳に止まった。

息子がベッドを降ろして、一階で寝られるようにしてくれたと、嬉しそうに話している。

親孝行を素直に喜び、はしゃぐ姿。
 
 

その柔らかな優しい笑顔を見ていて、胸がチクっとした。

口では「お義母さんのため」と言いながら、本当は「私のため」だったことに自分で気付いてしまった。

階段から転げ落ちて入院でもされたら、仕事や生活のペースを変えざるを得なくなる・・・

その前に先手必勝。

そんな思いを隠しながら、「親切な提案」をしていた。
 
 

亀の甲より年の劫、義母くらいの年齢になると、そんな私の浅はかな考えはとっくにお見通しか。

私が待っていることも気にもせず、ひたすら話続ける二人を、ちょっと反省の面持ちで離れたところから眺めていた。
 
 

帰宅して、もう一度居間を見渡す義母。

「ベッドを置いたら狭くなるかと思うたけど、そーでもないな。」まんざらでもない顔をしている。

これは気に入っている様子だ。

良心の呵責があっただけに、とりあえずホッとする。
 
 

その義母を置いて、次は墓掃除へ。

墓に眠る義父に話しかける。

「お義父さん、お義母さんを迎えに来るのは、もうちょっとだけ待ってね。せっかくベッドを移動させたんだから、しばらくはそこで寝てもらわんと。入院なんかされたら、今日の苦労が水の泡じゃわ。」
 
 

・・・あ。
 
 

まだまだ人間が出来ていませんわ、とほほ。