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彼はぐぐっと奥歯をかみしめ、涙をこらえた。
 
 

この年まで、相当ヤンチャをしてきたのだろう。

いくら今日がご本人の結婚式だからって、性格が今日だけ変わることなんてない。

ケーキカットで新婦さんの顔にケーキを押し付け、ウケ狙いをしている。

だがそれは緊張と、出席してくれた皆さんへの過剰なほどのサービス精神だというのはわかっている。

床に散らばったケーキを片づけながら、そっと新郎さんの顔を見上げた。

まだ汗いっぱいかいているなー・・・
 

いわゆる「ええ年」をかなり超えている新郎さん。

ご両親もお亡くなりになられて久しいようだが、ご縁あって年の離れた新婦さんとめでたく本日の挙式を迎えられた。

でもきっとそれまで、きちんとした席に出席することも、そうなかったのかもしれない。

どう振る舞ってよいのか・・・それが自分が主役の結婚式だなんて、というような困惑がひしひしと伝わってきた。
 

控室で必死に挨拶の練習をされている。

最初の挨拶は、カンペ見ながら無事クリア。
 

衣装チェンジのときには最後の挨拶の予習。

「ああ、覚えられん・・・」とブツブツ言いながら呪文のように唱えている。
 

本当はおおらかで、豪快で、大きく口を開けた笑顔がステキな新郎さんなのに。

カンペなど見ずに、皆さんにしっかり顔を見せて差し上げてほしいなー・・・
 

そう思っていたら、いきなりカンペをテーブルに置いた。

しどろもどろだけれど、必死に自分の言葉で出席の皆さんに感謝を伝え始めた。

両親が亡くなったあと育ててくれた姉ちゃん、家出同然で出たあと助けてくれた友達、心配かけた親族兄弟、仕事紹介してくれた先輩・・・

なかなか終わらない挨拶だったけれど、会場はだんだんと静まり返り、誰もが新郎さんの心からの感謝の言葉に聞き入っていた。
 

退場後、我に返った新郎さん。

「なんであの時カンペを読まんかったんじゃろ、ああ、失敗したあ~」

一人でパニクっている。

新婦さんが、「大丈夫だって」と背中をさすっている。
 

「大丈夫ですよ、今日初めてお会いした私にもしっかりとお気持ち伝わってきましたよ」

お見送りギフトの準備をしながら、私は言った。

「手紙を読んでいたら、今日の感謝だけでなく今までの感謝がどんどん、どんどん思いだされて湧き上がって来て、どの感謝から伝えていいかわからないほど、たくさんの思いがこみ上げてこられたんでしょう。そうしたら、紙に書いてある言葉では伝えきれないと思って、それで皆さんを見てお伝えしようとまっすぐ顔をお上げになったんでしょう。皆さん、吸い込まれるように聞いていらっしゃいましたよ。母替わりだったお姉さんは、今日はずっと厳しいお顔をされていたけれど、あのときだけは頬が緩んでいらっしゃいました。きっと、伝わってます。」
 

口元をこぶしで押えながら、目を潤ませながら新郎さんは、うんうん、うん、うんうん、と何度も頷いていた。
 
 

たった一日だけの出会い、お世話係。だけど、物理的なことだけでなく言葉でもお二人を応援できる介添えでありたい。