「わたしゃ、どこにも行ったことがない。」義母の口ぐせだった。今ではすっかり足腰が弱っているが、それまでは私たち夫婦と年に一度、少し遠出の旅行をしていた。

何年か経ち、手ごろな行き先が見当たらなくなってきた頃のことだった。

「今度はここに行こうか。」と提案すると、「そこは婦人会で行った、あっちは敬老会で行った、講仲間で……。」と次から次へとネタが出てくる。

困った私が、「じゃあどこへ行きたい?」と聞くと、自分の言っていることの矛盾を少しはわかってきたのか、苦し紛れに、「高速道路を延々と走る旅がしたい。」と言い出した。

これにはさすがに息子である夫が “ガツン”と叱ると、汗をかきながら言い訳を始めた。

高速道路のカーブが綺麗だとか、橋を見るのと通るのとは景色が違うとか、「どんな人がこれをデザインしたんじゃろうか~と考えながら車窓を眺めとるのが楽しいんじゃ。」と。

 

夫は呆れていたが、実は私はその横で、そういえば私もそんな感覚になる時があるな…と考えていた。

 

私の場合は、残念ながら高速道路ではなく、着物の文様だ。それこそ義母と同じで、「誰がこんな斬新で繊細で味のあるデザインを考え出したのだろう…」と眺めるのがとにかく楽しい。

植物・動物・器物・自然・割付・格の高い文様……四季のある日本には、文様にしたくなるデザイン性の高いものが、とにかくたくさんある。おそらく数えきれないだろう。

また、それぞれの文様には、それぞれの願いが込められている。文様の組み合わせで、願いをさらに強いものに深めていける。

祝い・無病息災や長寿・子宝・健やかな成長……穏やかな毎日を、家族の幸せを文様に込めている。

江戸小紋の三役と言われる、“鮫・行儀・角通し” なんて、ネーミングもなかなかだ。

ダジャレやユーモアのセンスに富んだものも数多くある。日本は豊かだ。本当に豊かだ。着物一枚・帯一本の中には、眺め続けても飽きがこないほど、願いとシャレっ気のたっぷり詰まった日本の良さが織り込まている。それが民族衣装なのだな、と思わずにはいられない。

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今日久しぶりに瀬戸大橋を渡り、ふとあの時の会話を思い出した。

橋の橋脚を下から見上げたら、本当にすごいデザインだった!。

思わずシャッターをきった。

義母の『審美眼』は案外正しい・・・、と改めて思った。

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