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半年近く、私の名刺をずっと持っていてくれたらしい。
「着つけを習いたいのですが・・・」との電話の声に覚えがあるようで、ないような。しかし会話が進むにつれ、お嬢さんが今年成人を迎えられたこと、それをきっかけに母娘で着物に興味を持つようになったことなど・・・そのときの光景を次第に思い出してきた。
半年前、偶然お会いしたのだが、何気ない会話の中で、着物姿であることから職業を尋ねられ、名刺とともに着つけを教えていることをお答えしたのだった。あ~、あのときの・・・・・

約束の日時にお訪ねすると、二人で待っていてくれた。顔だちが良く似ている母娘さんだった。
「タンスをひっくり返すように全部出しておいてもらえますか。」
お伝えしたとおりに、いろんな着物や帯、小物をそこに準備してくださっていた。その中でお稽古に使えるお道具類を一緒に選んでいく。着付けを習うといっても、すべて新しいものを買い揃える必要はない。まずはそこにあるものを使う。それは、お母さん、お祖母さん、もしかしたらそのまたお祖母さんが、気持ちを込めて大切に残してくださったものかもしれない。民族衣装と言うと古めかしいもののようだが、その着つけの世界は日々進歩している。使いやすく便利なお道具も開発されている。でも、まずは残してくださった「気持ち」をしっかり受け止めることが大切だとお伝えしたい。あとは、使いやすさ、さらに綺麗に、ラクで便利、などということで、自分の「着つけ」を進歩させるために、随時お道具を見直していけば十分だ。

その日は母娘二人で向かい合って、ゆかた着つけのレッスンをしていただいた。着つけを始めるには、今はちょうどよい季節。ゆかたは着物と同じ形をしている。慣れてもらうには、ゆかたから始めるのが手軽でおススメ。初対面のせいか無口なお嬢さんに「これからの季節、花火やお祭りがあるから、ゆかたでお出かけしてみたら?」とレッスンしながら楽しい想像をうながす。が、真面目そのもので一生懸命。お嬢さんの表情は、ゆかたを着た自分を見ても特に変化がなく、クールビューティーできれいな顔立ちのまま。普段はお友達同士ではキャーキャーはしゃぐのだろうが、楽しんでくれているのかな?とちょっと不安だった。

次の日、お母さんから電話をいただいた。お嬢さんが一人でレッスンしたいという。レッスン料は自分で払うそうである。一夜明けてから、そう宣言したらしい。
「とっても楽しかったんですって!」
何よりお母さんが一番驚いていた。レッスンの表情からは娘の気持ちを読み取れなかったようだ。受話器の向こうで弾んだような声に、母親としての喜びが伝わってきた。

お嬢さんが「目覚め」てくれたことがうれしかった。年内に結婚されるお友達がいて、その時にも着物を着ていきたいのだという。目標があれば上達は早い!まだまだこれから、着ていくシーンは増えるだろう。お嬢さんの「着たい」を増やすお手伝いを、私はどれだけできるだろうか。
・・・・気合が入る!

今回の母娘とは本当に偶然の出会いだった。人との出会いとは奇跡のようなものだとつくづく思う。

着つけ講師の本当の仕事は、『着物の暮らしを家庭に戻すお手伝い』だと思っている。これからも、そのお手伝いが少しずつでも出来ますように。