黒留袖を着て、式場の最前列に座る日がくるなんて、思いもよらなかった。

ここは結婚式場。新郎の母親の席。

・・・といっても、これはホンモノの結婚式ではない。

介添えをさせていただいているブライダル会場のフェアで、新郎の母というお役をいただいた、という話だ。

しかし、いつも介添えを務めている式場なのに、こうも景色が違ってみえるものか、、、、、

 

介添えの立ち位置は、だいたい決まっている。

新婦の傍らにすぐに寄ることができる場所。

何かあればさっと動き、対応ができる場所。

新郎新婦の見ている景色とほぼ同じ。

 

母親の席は、それとは真逆のお客様側。しかも最前列。

新郎新婦が結婚の誓いをする、すぐそばで見守る席。

何かあったら、すぐに寄り添うことができる場所だけれど、決してそうしない、ただじっと成長した我が子を見上げ、見守るだけの場所。

何十年来、親子として過ごしてきて、我が子をこんなに近く、それでいて遠くに感じる瞬間である。

その場所で、成長した我が子を誇らしげな気持ちで見守るのだろう。

親の気持ちが、その席に座っているだけで心に響いてきた。

(代役の)母である私に、「今日までありがとう。二人のような夫婦を目指してがんばります。これからもよろしくお願いします」と(息子役の)新郎に言われ、自然に涙が込み上げてきた。

私たちが見せてきた姿勢は間違っていなかった、そんな気持ちで親は我が子の言葉を受け取るのだろう。

そんな感情が込み上げてきて、ギフトを受け取るとき思わず、「ありがとう」と、言葉が出た。

 

介添えという仕事を20年させていただいていた中で、ずっと思っていたことがある。

新郎新婦にとって、私はどんな存在であるべきなのか。

長い間考えて、私の中から生まれた言葉は、「一日だけの母」だった。

少しおこがましく聞こえるかもしれない。

人は不安になると、一番頼れる人にそばにいて欲しいと思うものだ。

それは、小さいころから自分を見守ってくれた親だろう。

…そう考えたとき、そこにいるだけで安心する、そんな精神的な支えになりたいと思った。

 

今回、新郎の母役になって、それなりに緊張と不安を感じさせていただいた。

セレモニーを滞りなく進めていけるのだろうか、きちんと話せるだろうか、そんなことを心配しながら、いつまでも子供だと思って見ていたら、、、、立派になった姿にうれし泣きする母の気持ちが、ジンジンと伝わってきた。

新郎新婦だけでなく、親にとっても、素晴らしいハレの日。

その一日を最高の思い出にしてあげたい。

 

「介添え」として、大切なことを学ばせていただいた時間だった。