この季節、我が家の玄関先にはよくタケノコが置かれている。
友人のお父さんが掘って来てくれるのだ。
前職で知り合った友人とは部署が違うため、仕事上でもたまにしか会うことがなかった。が、近所ということもあり、同僚の結婚式出席のときは私がお着つけをして一緒に着物で参列するなど、折にふれ親しく付き合っていた。
一人っ子だった彼女には、振袖は2枚、嫁入り道具とする着物一揃え、すべてタンスにきちんと用意されていた。着つけでお邪魔したとき、お母さんは嬉しそうにその着物一式を私に見せてくれたことがある。そこには親御さんの愛情がいっぱい詰まっていた。日本の良い伝統だな、と感じたものだ。
ある日、元同僚から彼女のお母さんの訃報を聞いた。駆けつけると、婚家から幼子を抱いて戻った彼女が、昨日まで元気だったお母さんのそばで、泣きはらして座っていた。
どう声をかけてよいか分からなかったが、無情にも告別の時刻は迫っている。お台所はご近所やご親戚の女性がすでに駆けつけている。私ができること……
喪服で彼女がお母さんを見送れるよう、きちんとお支度をさせていただこう…そう思った。
喪服は袖を通す回数は少ないほうがよい、と出番を期待されない着物ながら、しかしいざという時に恥をかかないためにと、親御さんが嫁入り支度にきちんと用意なさる、格の高い着物だ。その思いのつまった着物は、タンスの中にちゃんとあった。帯や小物、着るお道具など、お母さんはすべてきちんと整理されていた。
呆然と座りこんでいる彼女に、「お母さんのために、お母さんが支度してくださった着物で、きちんとお見送りしよう。」そう伝えると、泣きながらうなずいた。
前日からの支度、当日の着つけ、脱いだあとのクリーニングまで、すべて一任していただいた。
すべてが終わり落ち着いた頃、着物をお届けに伺い、お父さんとお会いした。
しばらく話をして最後に静かにおっしゃった。
「娘はええ友達を持って良かった…」
自分の趣味で始めた着つけだったが、お役に立てて良かった、心から思った瞬間だった。
それ以来、毎春タケノコはやってくる。採れるたびに持って来てくださるので、我が家はタケノコを買ったことがない。
お父さんは、お墓参りを一日も欠かさない。お会いできたときは、我が家のアルストロメリアを、お花が大好きだったお母さんの墓前にお供えいただいている。
タケノコが取り持つご縁をずっと大切にしていきたい。