
離れている駐車場に、芳醇な梅の香りがただよってきた。
神崎梅園は、知る人ぞ知る岡山市の梅の名所。 その中にある緑地プラザで、今春の「梅まつり」期間中には『 帯deアート展』を、そして年中を通して「前結び着つけ」 教室を開いている。
3月には、春を告げる梅が寒さの中に可憐な姿で咲き誇っていた。 季節がめぐり、もうたわわな実をつけている。
季節はめぐる、ということでは、前結び着つけ教室も、 その頃とはほんの少し様変わりしている。
今までは、かなり年齢層が高かった。 もちろん地域的なものもあるが。
「終活」でタンス整理していたら着物が出てきたから、 などと冗談を言いながら、着つけを楽しいリハビリ体操として、 また着物の虫干しを兼ねて、 毎回いろんな着物を着ることを楽しんでくださっている。
昔の着物はとても質が良い。 そして柄も大胆であったり繊細であったり、 とても見ごたえがある。
毎回そんな逸品とふれあい、おしゃべりしながら楽しくレッスン。
前結び着つけは、文字どおり帯を前で結び、 そして後ろに回して完成する。
年齢とともに少しずつ肩は上がらず、手が後ろに回らなくなり・・ ・今までのように好きな着物を楽しむ機会が減っていても、 前結びなら肩も手も上がらなくても、 自分の目の前で確認しながら帯を結べるし、 柄もきちんと決められるから、と喜んでくださる。
楽しいリハビリ体操、というのは、 やはり着物を着るという行為そのものが身体を動かす。しかも、 その動いた結果が好きな着物を着ている、 ということになるので一石二鳥なのだそうだ。
その皆さまは、 レッスン後お友達と着物姿でランチに行くのだと楽しそうにおっし ゃっていた。
今では、さらにもう少し若い世代が増えている。「お母さん世代」 が増えているのである。
きっかけは・・・さまざまだが、一つはお嬢さんの成人式・ 振袖が関係している。
お嬢さんが成人を迎える、 ということは親御さんにとって本当にうれしいことだろうと思う。
私は、「振袖を着る」ことが、 これから大人になっていくお嬢さんたちの着物を知るきっかけ、 自分の中に取り入れていくきっかけとなってほしいと願っていた。
それよりも・・・そのお嬢さんの振袖を選ぶことから、「 お母さん世代」が着物を見直すきっかけになっているのでは、 という感じがする。
お嬢さんの振袖を着た姿を見て、子育てが一段落・・・ と少しホッとしたとき、これからご自身のために時間を使おう、 と考えることが増えるのかもしれない。
そのときに、立派に成人し振袖を着たまぶしいお嬢さんを見て、 着物…そう言えば昔着た、持っていた、 と振り返ることもあるだろう。
また、振袖を着たことで着物に少し興味がわいたお嬢さんに、 たたみ方くらいは教えてあげたい、と思われるのかもしれない。
とてもうれしいことだ。
着物はなんといっても民族衣装。 日本人にとって大切なものであることは間違いない。
それはやはりご家庭で、親から子、 子から孫へと伝わっていってほしい。
お母さんが着物を着てお出かけする姿をお嬢さんが見る。 その記憶はいつか機会が訪れたとき、お嬢さん自身が、 着物を着たいと思うきっかけになるのではないかと思う。
ご家庭に着物がある、着物を着る方がいらっしゃる、 その姿を見て育つ・・・ ごく自然に着物に親しむようになるのはこんな流れだろう。
戦後、洋服が主流となり、家庭で着物を着る機会が減ってしまう。 家族の着物姿を見なくなったことから、 着物離れは進んだのだろうと思う。
でも、ある日突然であっても、 お母さんが着物を着るようになることで、それは変わる。
着物が珍しいもの・特別なものから、普段のものになる。
それが次の世代、また次の世代へとつながっていったら、 着物が家庭の中に自然に戻っていくだろう。
おうちで誰かが着ているということは、 着付けの技術もそこにあるということになる。
着つけ教室の役割は、一旦は離れてしまった技術や文化を、 家庭に戻すことではないかと私は考えている。
こちらの神崎梅園では、この季節、いつも「梅ちぎり」 を開催している。
今年は 6月5日(日)。
市価よりお得なお値段で、自分でちぎった実を好きなだけ、 量り売りしてくれる。
「梅まつり」同様、大勢の人出でにぎわう恒例行事だ。
保存食でもありジュースにもなり、百薬の長にもなる梅。
これらの作り方も、 家庭でつなげていってもらいたいものの一つだ。
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