同級会で温泉にいったときのことです。
「これ、おはしょりつくって着るんかなぁ。」
温泉の脱衣所で友達に話かける、あどけない声。
私は思わず振り向きました。
みると中学生くらいの少女が数人、
温泉から出て、浴衣に袖を通そうとしています。
その中で、背丈がこれから充分のびるだろう可愛いらしい背丈の少女が、
大人サイズを羽織って、友達と笑っていました。
「お端折り(おはしょり)」は、女性が着物を着るときに、
裾をたくし上げるために、腰辺りにできる「あげ」の部分です。
着物特有の専門用語。
そんな言葉を、あどけない少女が何気なく口にして、
でも周りの友達は、特に気にする様子もなく、話はまだ続いています。
「おはしょりって言葉を、よく知ってるね。」と少女に話しかけると、
そこにいる誰もがちょっと不思議そうな顔をしました。
私の質問の意味に気付いた周りの友達が、
「だってこの子んち、呉服屋やもん。」
あーなるほど。
日常の親御さんとの会話や大人が話している会話の中に、
着物関連の用語がたくさん入っていて、
それを自然と耳にしているから、なんの違和感もなく
彼女はこの言葉を覚えたのでしょう。
彼女たちは京都の中学生で、テニスの合宿に来たのだとか。
いきなり知らない大人が声をかけても、
屈託のない笑顔で受け答えする姿がとてもまぶしく見えました。
最近は着物が家になかったり、
持っていてもほとんど着ることがなく、
核家族化でお祖母さんもいないから、
着物の会話など皆無の家庭も多いと聞きます。
着物離れ、という言葉が生まれて久しいこのごろ。
それも仕方ないことなのかと思っていたけれど、
友達との会話の中に、こんな着物の専門用語が自然と出るって、
なんて素敵な環境なんだろうと、
ちょっと心を温めてもらったひとときでした。